【解説】急に後ろ足を引きずるようになった…椎間板ヘルニアについて
2025/04/11
流山市、柏市、野田市のみなさんこんにちは。
流山市おおたかの森にある、21動物病院-おおたかの森- 院長の坂本です。
今回は椎間板ヘルニアについて解説します。
椎間板ヘルニアとは
椎間板は背骨(椎骨)の間にあるクッションの役割を果たす軟部組織です。これが背側に飛び出す(ヘルニア)ことで、脊髄を圧迫し、疼痛や麻痺を引き起こします。
椎間板ヘルニアにはいくつか病型があり、ハンセンⅠ型椎間板ヘルニア、ハンセンⅡ型椎間板ヘルニアが挙げられます。ハンセンⅠ型もⅡ型も脊髄を圧迫することで症状が出ますが、ハンセンⅠ型の中でもANNPEと呼ばれる少量の髄核が急激に脱出することで圧迫は認められないのに脊髄を損傷させるものもあります。
ハンセンⅠ型椎間板ヘルニア
ハンセンⅠ型は頸部と腰部での発生が多く、好発年齢は3~7歳齢と比較的若いです。
椎間板にある線維輪が変性し、中にある髄核が脊髄側に脱出することで脊髄を圧迫・損傷させます。髄核の脱出は急速に発生するので、症状もいきなり(急性に)発生します。
好発犬種として次の軟骨異栄養性犬種と呼ばれる犬種が挙げられます。
- ミニチュア・ダックスフンド
- ペキニーズ
- ウェルシュ・コーギー
- アメリカン・コッカー・スパニエル
- シー・ズー
- ビーグル
- フレンチ・ブルドッグ
ハンセンⅡ型椎間板ヘルニア
ハンセンⅡ型は尾側頚椎、腰仙椎での発生が多く、好発年齢は中高齢以上です。
こちらは線維輪がゆっくりと変性して膨張することで、脊髄を圧迫していきます。変化はゆっくりと進むので、発症も数週間~数ヶ月かけて進行していきます。
椎間板ヘルニアの症状
疼痛のみの場合から、四肢の麻痺、麻痺による排尿障害まで様々です。疼痛・麻痺の程度により重症度分類がされています。
<頸部椎間板ヘルニア>
グレード | 症状 |
1 | 頚部痛のみ。 |
2 | 歩行可能だが、神経学的異常がある。 |
3 | 歩行不能な四肢の不全麻痺。 |
<胸腰部椎間板ヘルニア>
グレード | 症状 |
1 | 背部痛のみ。 |
2 | 歩行可能で、後肢の運動失調がある。 |
3 | 歩行不可能で、後肢の不全麻痺がある。 |
4 | 歩行不可能・排尿障害があり、後肢の麻痺がある。痛覚がある。 |
5 | 歩行不可能・排尿障害があり、後肢の麻痺がある。痛覚がない。 |
椎間板ヘルニアの診断
脊髄に損傷を与える疾患であれば椎間板ヘルニアと同じような症状を呈するため、しっかりと検査していきます。
身体検査(神経学的検査を含む)、X線検査、MRI検査を行います。
神経学的検査
四肢・背中・会陰部などの反射・反応を検査することで、病変部位をある程度絞っていきます。
X線検査
脊椎のX線画像を撮影します。X線検査では脊髄や椎間板は写らないので、椎間板ヘルニアだと診断が下せることは少ないです。しかし椎骨の脱臼・骨折・腫瘍・奇形などの有無を確認するために必要となります。
MRI検査
MRI検査は脊髄そのものや椎間板を評価できるため、直接椎間板ヘルニアの診断を下すことができます。また椎間板ヘルニア以外にも脊髄の腫瘍・脊髄梗塞・脊髄空洞症など他の疾患かの評価も可能です。
MRIは一次診療施設(まちの動物病院)には通常設置されておらず、大きな動物病院や画像検査を専門にしている動物病院に紹介して検査する必要があります。
また人間と違い動物はじっとしてくれないので、基本的には全身麻酔下での検査となります。
椎間板ヘルニアの治療
お薬や安静を主体とした内科治療と手術を行う外科治療がありますが、重症度・グレードにより治療成績が異なります。内科・外科のどちらが正解という基準はありません。
<胸腰部椎間板ヘルニア>
グレード | 内科治療の回復率 | 外科治療の回復率 |
1 | 55~85% | 83~95% |
2 | 55~85% | 83~95% |
3 | 33~85% | 85~99% |
4 | 50~68% | 73~98% |
5 | 7~12% | 17~83% |
グレード3からは外科治療のほうが回復率が高くなっています。とはいえ内科治療でも治る可能性もありますし、外科治療で絶対に麻痺が治るわけではありません。
また内科治療、外科治療のいずれにしてもグレードが高いほど回復率は下がっていきます。
頸部椎間板ヘルニアに関しては回復率のデータはありませんが、グレード1,2での内科治療は50%とされています。また一般的にはグレード1,2であればまずは内科治療をし、反応が悪ければ外科治療を行います。グレード3は外科治療から入ります。
ハンセンⅡ型椎間板ヘルニアは椎間板の線維輪が変性して発生しますが、コチラの場合はゆっくりと進行してきているため、内科治療よりも外科治療のほうが適応となります。
内科治療
内科治療には運動制限、脊椎固定装具、投薬、リハビリテーションが含まれます。
内科治療のメリットは費用が抑えられること、麻酔・手術のリスクがないことが挙げられます。デメリットはヘルニア物質を除去できるわけではないので外科治療に比べると再発のリスクは高くなります。また回復までの時間が長くなることが挙げられます。
運動制限
最も重要な治療になります。脱出した椎間板組織の線維化・瘢痕化の促進、脊髄の悪化の抑制などを目的に行います。
ケージレストといい、体長の1.5倍の広さのケージで過ごさせます。また高さがあると跳んだり立ち上がったりしてしまうため、天井を作り高さも制限することが望まれます。
期間は短くても2週間は行います。獣医師によっては3~4週間行う場合もあります。
運動制限は頸部椎間板ヘルニアでは反応が悪いとされています。病変部が首なので、どうしても不動化することができないからです。
その場合は次の脊椎固定装具を使うことがあります。
脊椎固定装具
ケージ内にいれると暴れてしまう場合や、頸部椎間板ヘルニアで首の不動化が難しい場合に装具を使うことがあります。
装具の装着が長すぎると逆に椎間板の変性が進行するため、獣医師に指示された期間のみの装着とすることと、予防的な使用はしないようにしましょう。
投薬
疼痛に対して鎮痛剤を使用します。
椎間板の脱出により脊髄に炎症が発生します。そこで消炎作用のあるポリエチレングリコール、好中球エラスターゼ阻害剤などを使用することもあります。ステロイドは副作用が出やすい一方で歩行可能になるまでの期間に変化がないとされているので、現在は推奨されていません。
また神経代謝改善のためのビタミンB製剤、二次的な脊髄損傷に対して抗酸化剤、脊髄の虚血保護などにATP製剤などを使用する場合もあります。
他に発展段階ではありますが、幹細胞治療なども選択肢になります。こちらは損傷して早い段階での治療介入が重要となります。
リハビリテーション
リハビリテーションは内科治療のみの場合はもちろん、手術後にも行います。関節可動域・筋力を維持すること、神経機能障害を改善することを目的とします。
マッサージ療法、他動運動(ストレッチなど)、起立訓練、歩行訓練などを行います。また動物病院によっては水中トレッドミルというリハビリテーション用のプールを使うこともあります。
外科治療
椎間板ヘルニア発生部位の周囲の椎骨を一部削り、脊髄にかかる圧迫を逃がすこと、脱出した髄核を摘出することを目的とします。整形外科に特化した動物病院や大きな動物病院で行われることがほとんどです。当院では実施できませんので、他の動物病院を紹介いたします。
外科治療のメリットは直接原因となっているヘルニア物質を取り除き、神経の圧迫を早期に解除できるため回復が早くなります。デメリットとして費用がかかること、全身麻酔・手術のリスクがあります。
椎間板ヘルニアから発展する進行性脊髄軟化症
椎間板ヘルニアは殆どの場合は治療をすれば改善するか変化でないままになります。しかし稀に脊髄軟化症に進行してしまうことがあります。
進行性脊髄軟化症は、病変部位から頭の方、尾の方へと進行する脊髄の壊死・融解を起こす病気です。頭の方へと進行することで最終的には呼吸不全となり、1週間以内に死に至る恐ろしい病気です。
現在のところ明確に有効だとされる治療法はありません。
脊髄の硬膜切開と椎弓切除により進行が抑えられるとの報告もあります。(すでに壊死した脊髄は元に戻らないため、神経症状が治るわけではありません)
当院ではエビデンスを元に検査・診断・治療を行っています。
椎間板ヘルニアについて不明点やご相談があれば、当院までお電話もしくはLINEにてお問い合わせください。
21動物病院-おおたかの森-
千葉県流山市おおたかの森北2-50-1 GRANDIS 1階
TEL: 04-7157-2105
Web予約: https://wonder-cloud.jp/hospitals/21ah_nagareyama/reservationsonder
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執筆:獣医師 院長 坂本