【解説】犬のワクチンの接種するべき時期とは?種類とは?
2025/01/17
流山市、柏市、野田市のみなさんこんにちは。
流山市おおたかの森にある、21動物病院-おおたかの森- 院長の坂本です。
わんちゃんを飼い始めたら予防すべきものとして、混合ワクチン、狂犬病ワクチン、犬糸状虫症(フィラリア)、ノミ・マダニなどが挙げられます。
その中でも今回は混合ワクチンと狂犬病ワクチンについてお話します。
そもそもワクチンとは?
病原体を弱毒化もしくは不活化して体に投与し、病気に掛かる前に予め免疫反応を起こしておくことで、本当に病気にかかったときに症状を軽減もしくは発症しにくくするものです。病気に全くならないわけではありません。
犬の場合、混合ワクチンと狂犬病ワクチンがあります。
混合ワクチンの種類
混合ワクチンは“混合”というだけあり、1本のワクチンの中に複数種類のワクチンが入っています(多価ワクチンといいます)。
狂犬病とは異なり、日本でも散見される感染症のワクチンとなります。
予防対象によって重要度の高いコアワクチンと状況により推奨されるノンコアワクチンに分類されます。
また予防対象の種類とは別に、病原性をどうやって減弱させたかにより、弱毒生ワクチンと不活化ワクチンに分類されます。(mRNAワクチンなどは犬ではまだ開発されていません。)
コアワクチン
生活環境によらずすべての犬に接種が推奨されているワクチンです。感染・発症すると命に関わることが少なくありません。
対象:犬ジステンパー、犬アデノウイルス2型感染症、犬伝染性肝炎、犬パルボウイルス感染症
ノンコアワクチン(非コアワクチン)
飼育環境や感染症の流行により推奨されているワクチンです。重症度が軽い、発症が一部の地域に限られるなどの理由から一部の犬に接種が推奨されます。
対象:犬パラインフルエンザウイルス感染症、犬コロナウイルス感染症、犬のレプトスピラ感染症
※2024年のWSAVAによるワクチンガイドラインで、レプトスピラの流行地域ではレプトスピラ感染症ワクチンはコアワクチンになると改定されました。
日本での発生どうか、というと毎年20-30件の発症報告が挙がっています。千葉県でも時折発生があるようです。基本的には暖かい地方で発生が多くなっています。発生はあるので暖かい地方に住んでいる方ほど予防した方が良いと思われます。
弱毒生ワクチン
ワクチンに含まれる病原体は生きています。ただし投与されても病気を発症しないように弱毒化されています。免疫刺激能が高いためしっかりとした免疫が得られ、長く持続することが多い。
不活化ワクチン
ワクチンに含まれる病原体は死滅されています。免疫刺激能は低いため、アジュバントという刺激するための成分が入っています。弱毒生ワクチンと比較すると免疫は得にくく、持続時間も短い。
混合ワクチンの接種時期
幼犬の場合は細かく複数回の接種が必要で、成犬は基本的に1~3年に1回の接種が必要になります。
幼犬の場合
複数回のワクチンを接種する必要があります。具体的には1回目を6~8週齢に接種し、それから2~4週間ごとに16週齢を超えるまで接種を繰り返します。あまり頻繁な接種は費用もかかりますし体力も使うので、4週間毎に接種するケースが多いかと思います。
なぜ幼犬は何度も接種するのかというと、母体からの移行抗体があるためです。
幼犬は胎盤を通じて、もしくは母乳を飲むことで母親の抗体をもらいます。(移行抗体といいます。ほとんどが母乳からの抗体です。)
この移行抗体により生まれてしばらくの間は感染症から身を守ることができます。
しかし移行抗体はもらった抗体なので時間の経過とともに減少し、最終的にはなくなります。
移行抗体がなくなってくる頃には自らで抗体を作れる(=免疫反応ができる)ようになっており、感染症に対する防御能ができてきます。(ほとんどの幼犬は遅くとも16週齢頃には免疫反応できるようになります。)
移行抗体がある期間は、ワクチンを接種しても移行抗体が干渉し免疫刺激となりません。なので自分で免疫反応できるようになったタイミングでワクチンを接種する必要があります。
ただし移行抗体がなくなってくる時期や自ら免疫反応できる時期は個体差があり予想が困難です。したがって免疫力が弱い期間を少しでも短くするために何度か接種する必要があるのです。
出典:WSAVA 2024 guidelines for the vaccitination of dogs and catsより改変
個体差があるため移行抗体は図よりも早く減少する可能性がある。そのため何度かワクチンを接種し、感染リスクが高い期間を少しでも短くする。
幼犬での初年度のワクチン接種が終わったあと、最終ワクチンから1年後のワクチンを接種するケースが多いです。
これは16週齢以降に接種した場合でも稀に免疫反応できない個体がいるため、そういった個体を拾い上げるために接種します。また不活化ワクチン(レプトスピラ感染症など)は免疫が長く持続しないため、1年後の接種が必要です。
成犬の場合
成犬では母体からの移行抗体の影響は考えなくて良いので、1~3年に一度の接種で問題ありません。
弱毒生ワクチンは免疫が長く持続するので、現在では3年に1度でも構わないとされています。ただトリミングやペットホテルなどでは毎年のワクチン接種証明書を求められるケースもあり浸透していないのが現状です。
一方で不活化ワクチンは免疫が長く持続しないため、1年に1度の接種が推奨されます。これには主としてレプトスピラ感染症が該当します。レプトスピラ単価ワクチンも存在はしますが、それだけを接種する事は多くなく、他のものと合わせた混合ワクチンとして接種することが多くなります。
もしレプトスピラ感染症の対策もしたい!となった場合はレプトスピラに対するワクチンを4週間間隔で2回接種する必要があります。これは不活化ワクチンは免疫応答が弱く、複数回の接種によりしっかり免疫応答させる必要があるからです。
老犬は接種どうする?
老犬でも成犬と同じように基本的には1~3年のワクチン接種もしくは抗体価検査をおすすめします。
高齢になると免疫力が落ち、感染した場合の重症化リスクがより上昇します。そのため免疫がない状況で放置というのは推奨されません。
もちろん元気がなく状態が悪いのであればワクチンは無理に接種せず、獣医師に相談しましょう。
当院の対応は
ワクチン接種の対応は地域・病院により差があります。またトリミングサロン、ペットホテル、集合住宅の管理者などがどこまでワクチンについて理解度があるかによって、ワクチン証明書をどうみるかが変わってくるかと思います。
上述した理想的なワクチン接種プログラムと現実的な状況を鑑みて、当院では
- 子犬は8週齢、12週齢、16週齢の3回ワクチン接種を推奨しています。特に16週齢以上でのワクチン接種は必須です。
- 成犬は1年毎のワクチン接種もしくは抗体価検査を推奨しております。
- レプトスピラ感染症に対するワクチンを接種している場合は原則1年毎の接種としています。
抗体価検査はコアワクチンである犬ジステンパー、犬アデノウイルス2型感染症、犬伝染性肝炎、犬パルボウイルス感染症のみが対象になります。抗体価検査をした場合は抗体価検査診断書を発行いたします。
もちろん抗体価検査をして、抗体価が低い場合はその時点でワクチン接種が必要になります。
また過去にワクチンを接種してアレルギーを起こしたというケースもあります。この場合の対応はいくつか選択肢が挙げられます。基本的には抗体価検査をして結果を確認するのが良いかと思います。
- 抗体価検査をして抗体価が問題ない場合は、抗体価が下がるまでワクチン接種はしません。
- 抗体価検査をして抗体価が低い場合
- ステロイド剤や抗ヒスタミン剤を事前に投与したうえでワクチンを接種する。
- ワクチンの種類を変更する(8種→5種など、メーカーを変えるなど)
- レプトスピラ感染が予想される地域に住んでいる、行くためにレプトスピラの予防をしたい場合。
- ステロイド剤や抗ヒスタミン剤を事前に投与した上でワクチンを接種する。
狂犬病ワクチン
狂犬病ワクチンは狂犬病を予防できる単価・不活化ワクチンです。こちらは日本では狂犬病予防法によって年に1度の接種が定められています。
初年度の接種時期は、飼い始めた日から30日以内、もしくは生後90日を過ぎた日から30日以内です。
不活化ワクチンですが免疫刺激は強く、年に1度でも十分な抗体価を維持できるとされています。
例外として、海外に輸出する場合は1年以内に狂犬病の2回接種と、その後の抗体価検査が必要になります。
当院ではエビデンスを元に検査・診断・治療を行っています。