【解説】首や膝裏が腫れてる!犬のリンパ腫について
2025/06/12
流山市、柏市、野田市のみなさんこんにちは。
流山市おおたかの森にある、21動物病院-おおたかの森-です。
今回は、犬の悪性腫瘍の中で発生率が高いリンパ腫について解説します。
犬のリンパ腫とは
リンパ腫は、免疫機能をもつリンパ球系細胞が腫瘍化して増殖する病気です。犬ではほとんどが悪性のため、悪性リンパ腫とも呼ばれます。リンパ腫は、犬で発生する腫瘍の中でも発生率が高いとされています。リンパ球が集まりやすいリンパ節や脾臓、骨髄などの部位で腫瘍化し発症します。
犬のリンパ腫の症状
リンパ腫の症状はタイプによって様々ですが、おおまかに以下のようなものが挙げられます。
犬のリンパ腫の初期症状
リンパ節の腫れやしこりが特徴的です。顎の下、脇の下、内股、膝の裏などにリンパ節があり、そこが腫れてコリコリしたしこりができると体表から触って判断できることがあります。リンパ節の腫れは痛みがなく気にすることが少ないため、飼い主の発見が重要になります。そのほかにも次のような症状が出ることがあります。
- 食欲不振
- 元気衰退
- 嘔吐
- 下痢 など
しこりに関連する過去のブログ記事はこちらをご覧ください。
犬のリンパ腫の進行した症状
- 体重減少:食べても体重が10%以上減少します
- 削痩:筋肉が落ちてやせ細ります
- 発咳・呼吸速迫・呼吸困難:痛みがあると呼吸が早くなり、また肺に転移したり胸水がたまると呼吸が苦しくなります
- 嘔吐:リンパ節やリンパ組織が腫れて腸閉塞を起こします。
犬のリンパ腫の分類
リンパ系細胞は、体表のリンパ節や脾臓、骨髄、消化管など全身に存在します。犬のリンパ腫は、病期や発症部位、悪性度で分類されます。
病期による臨床ステージ分類
病状の進行度は、WHOの臨床ステージ分類によって評価します。
ステージⅠ | 単一のリンパ節または単一のリンパ系臓器(骨髄を除く)に現局した病変 |
ステージⅡ | 一つの部位における複数のリンパ節に病変 |
ステージⅢ | 全身のリンパ節に病変 |
ステージⅣ | ステージⅠ~Ⅲに加え、肝臓や脾臓に病変 |
ステージⅤ | ステージⅠ~Ⅳに加え、血液や骨髄、他の臓器に病変 |
サブステージa:全身症状*なし サブステージb:全身症状*あり *全身症状は、発熱、10%以上の体重減少、高カルシウム血症 |
発生部位による分類
犬ではリンパ腫が発生する部位によって5つのタイプに分類され、中でも多中心型リンパ腫が多く発症します。また、猫では犬とは異なり消化器型リンパ腫と胸腺型(縦隔型)リンパ腫が多く見られます。
猫のリンパ腫についてのブログ記事は、こちらからご覧ください。
多中心型リンパ腫
犬のリンパ腫の中で圧倒的に多く発生するタイプです(約80%)。体表のリンパ節には下顎リンパ節、浅頚リンパ節、腋窩リンパ節、鼠径リンパ節、膝窩リンパ節などがあります。この中で特に、下顎リンパ節、腋窩リンパ節、膝窩リンパ節の腫大が多くみられます。痛みはないものの、腫れるという違和感によって食欲低下や元気消失がおこることがあります。抗がん剤に反応しやすいです。
消化器型リンパ腫
犬のリンパ腫で二番目に多く発生するのが、このタイプです(5-7%)。胃や腸管のリンパ組織が腫大します。食欲低下や元気消失に加えて、下痢、嘔吐、血便などの消化器症状が現れます。病変の位置にもよりますが、一般に予後が悪いです。
皮膚型リンパ腫
犬のリンパ腫であまり多い発生頻度ではありません(まれ~8%)が、皮膚炎のような症状がでます。多くは体幹部の皮膚や口唇粘膜に発生し、発赤、丘疹、脱毛、びらん・潰瘍、ふけなどが見られ、痒みが出ることがあります。予後は、病変の位置により様々です。
縦隔型リンパ腫
縦隔という左右肺の間にあって胸腺や前縦隔リンパ節が腫大します。このタイプもあまり多くみられません(まれ~5%)。食欲低下や元気消失に加えて、胸水がたまることで呼吸困難になり、咳や開口呼吸がみられます。
節外型リンパ腫
肝臓、脾臓、眼、中枢神経系、腎臓、鼻腔などにしこりができ、ぶどう膜炎、緑内障、角膜炎、急性腎不全などがおこります。腫瘍ができる場所によって症状が異なります。発生はまれです。
悪性度による分類
リンパ球は、骨髄の造血幹細胞からリンパ系幹細胞へと成長(分化)して、B細胞(Bリンパ球)、T細胞(Tリンパ球)、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)になります。ここで、リンパ球が未熟のまま腫瘍化すると、若く活発な細胞なので分裂増殖能力が高くなり、悪性度が増します(低分化型、高悪性度)。犬ではB細胞性高悪性度リンパ腫が最も多くみられます。
犬のリンパ腫の原因
犬のリンパ腫の発生原因については、完全にはわかっていません。ただ、次のような原因が関係していると考えられています。
- 遺伝的要因:ゴールデン・レトリーバーなどの好発犬種
- 免疫の異常
- ウイルス感染:犬白血病ウイルスなど
- 慢性炎症
- 加齢:老化による腫瘍抑制機能の低下
- 環境影響の曝露:発がん性物質、農薬、たばこの煙など
犬のリンパ腫の好発犬種と好発年齢
好発犬種として、ゴールデン・レトリーバー、ボクサー、ラブラドール・レトリーバー、ビーグル、また、ポメラニアン、ボストンテリア、ジャックラッセルテリア、シーズー、ヨークシャーテリア、コッカースパニエルなどの小型犬で多くみられます。また、7歳以上の中高齢の雌で多く、若齢のダックスフンドでも見られることがあります。このような傾向がありますが、全ての犬種、年齢、性別で発生する可能性があります。
犬のリンパ腫の診断方法
犬のリンパ腫を診断するために、次のような検査を行います。
視診と触診
体表リンパ腫の腫れとその状態を中心に、体全体に異常がないか確認します。
血液検査
貧血、白血球、血小板、肝臓や腎臓の数値などを確認します。
尿検査
腎機能の状態を確認します。
レントゲン検査・超音波検査
リンパ節の腫大の状態や内臓への浸潤、転移などについて確認します。
細胞診
リンパ節や異常のみられる臓器の一部を採材して、腫瘍化している細胞があるかどうかについて顕微鏡で確認します。リンパ球の大きさや悪性度を見ることができ、リンパ腫を確定するのにとても重要な検査です。
病理組織検査やクローナリティー検査
細胞診や手術で採られた組織の免疫染色や、B細胞型かT細胞型かの解析を行うことで、どのような状態でどの病型にあてはまるかを詳細に診断します。
犬のリンパ腫の治療方法
犬のリンパ腫は、残念ながら完治は難しいことから、症状を緩和あるいは寛解させてQOLを改善することが治療の目的になります。「導入」→「維持」→「再導入」→「レスキュー」という流れで治療していきます。
- 「導入」・・・リンパ腫と診断されてはじめて、抗がん剤プロトコールを用いて治療します。これにより症状がよくなって寛解となることもあります。
- 「維持」・・・導入を終えてから、治療はせず定期観察して様子をみます。
- 「再導入」・・・生き残っていた腫瘍細胞が再び増殖してリンパ腫が再燃したときに、再度治療を行います。使用する抗がん剤やプロトコールは、改めて検討します。
- 「レスキュー」・・・再燃を繰り返すようになった場合、導入ステージで使用しなかった抗がん剤を用いて治療します。
具体的な治療方法には、次のようなものがあります。それぞれの治療法は単独で実施することもありますが、外科手術と抗がん剤あるいは外科手術と放射線治療など、いくつか組み合わせて行うこともあります。
抗がん剤療法
抗がん剤を利用した化学療法で、最も一般的で効果が高い方法です。多くの犬で症状が改善し、QOLを維持できることがあります。多くの抗がん剤から適したものを選択し、4~5か月程度かけて注射や内服による投与計画を立てて進めていきます。副作用があり、嘔吐や下痢、食欲不振などの胃腸障害や脱毛(抜け毛)が出たり、感染症にかかりやすくなることがあります。また、投与する抗がん剤によっては大きな副作用が出ることがあります。
外科手術
腫れたリンパ節や腸閉塞を起こした腫瘍を摘出したり、破裂した脾臓の止血をするなど、症状の緩和が目的です。手術だけの寛解は難しいですが、抗がん剤や放射線治療を組み合わせることで効果が上がります。
放射線療法
リンパ腫の病変が全身でなく、局所のときに実施します。手術ができない場合や、手術で腫瘍を摘出した後に実施されますが、複数回の照射の際には毎回麻酔が必要になります。この治療は高度な技術を必要とするため、対応できる動物病院は限られます。
食事療法
食事療法だけで治療はできませんが、抗がん剤の反応を上げ、免疫力を上げて消化器症状を改善して、少しでも体力をつけるために食事内容を工夫します。腫瘍細胞は、炭水化物やたんぱく質をエネルギーとしています。炭水化物を与えすぎず、良質な高タンパク質、ミネラルやビタミン、DHAやEPAに代表されるω(オメガ)3脂肪酸といった症状を改善させる食材を与えることで、免疫力をつけて腫瘍の増殖を遅らせます。
緩和ケア療法
痛みを緩和させ、少しでも苦しみから解放できるようにします。免疫機能を向上させるために、スキンシップも効果があります。
犬のリンパ腫の予防
犬のリンパ腫を予防できる方法は、今のところわかっていません。しかし、早期発見と早期治療により、症状を抑えたり進行を遅らせたりすることは可能です。そのためには、健康管理や定期的な健康診断の受診が大切です。免疫機能を高めるために重要な食生活、適度な運動やストレス管理を心がけて、発症リスクを減らしていきましょう。
さいごに
犬のリンパ腫は、残念ながら完全に治すことは難しい病気です。また、リンパ腫のタイプや年齢、状態によっても予後は変わってきます。早期発見により、症状の進行が抑えられる可能性が高まりますので、日頃からスキンシップを心がけ、健康管理を続けていきましょう。
当院ではエビデンスを元に検査・診断・治療を行っています。
犬のリンパ腫について不明点やご相談があれば、当院までお電話もしくはLINEにてお問い合わせください。
21動物病院-おおたかの森-
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執筆:獣医師 一色
監修:獣医師 院長 坂本