【解説】犬の甲状腺機能低下症
2023/10/30
今回は甲状腺機能低下症についての解説です。
タイトルに”犬の”と付けたのは、犬ではしばしば認められますが、猫では非常に稀だからです。
そもそも甲状腺って何?
甲状腺は、人間だと喉仏のあたり、気管にへばりつくように存在する内分泌(ホルモンを出す)器官。
新陳代謝をコントロールするホルモン「甲状腺ホルモン」を分泌しています。
甲状腺ホルモンにはT4, T3があります。T4が活性化してT3になるので、実際に作用するのはT3となります。体内の量としてはT3はかなり少なく、T4が主体となっています。
甲状腺機能低下症って?
甲状腺の機能が落ちる、つまり分泌するホルモン量が少なくなる病気です。
犬では一次性(原発性)甲状腺機能低下症がほとんどであり、二次性や三次性は稀です。つまりほとんどの場合、甲状腺自体にトラブルがあるということです。
原因としてはリンパ球性甲状腺炎や特発性(原因不明の)甲状腺萎縮などが挙げれます。前者では自己免疫性の可能性が指摘されています。
その他にリスク因子として次のようなものが挙げられています。
- 高齢
- 避妊・去勢済み
- 特定の品種(秋田犬、アメリカン・コッカー・スパニエル、ゴールデン・レトリバー、シェットランド・シープ・ドッグ、ダルメシアン、ビーグル、ミニチュア・シュナウザー)
甲状腺機能低下症の症状は?
代謝が落ちることで、皮膚症状、肥満、活動性の低下、徐脈、神経症状などがでます。
中でも皮膚症状、肥満、活動性の低下が多いとされています。皮膚症状としては次のようなものがあります。
- 身体の左右対称性の脱毛
- しっぽの脱毛(ラットテイル)
- 皮膚の色素沈着
- フケや脂漏(角化異常)
- 再発性膿皮症
- 外耳炎
- 顔の皮膚のむくみによる”悲劇的顔貌”
甲状腺機能低下症の診断方法は?
まず臨床症状があること。先ほど述べたものです。
血液検査では高コレステロール血症、高トリグリセリド血症が認められることが多いです。
ホルモン検査として、甲状腺ホルモンであるT4, 遊離T4、甲状腺刺激ホルモンTSHをチェックします。
場合により甲状腺に対する抗体の抗サイログロブリン抗体(TgAA)をみることもあります。
なかなか診断がはっきりしないときは、超音波検査で甲状腺のサイズを測ることもあります。
診断時の注意点として、ユウサイロイドシック(Euthyroid sick)症候群というものがあります。
これは他の病気、薬剤、麻酔、手術などによって生理的な反応を起こし、甲状腺ホルモン量が減ることを言います。
検査すると甲状腺ホルモンが少なく見えるので、甲状腺機能低下症と誤診することがあります。
甲状腺機能低下症の治療は?
一度破壊された甲状腺の機能は回復が見込めません。したがって生涯にわたるホルモン補充療法となります。基本的には飲み薬です。
ホルモン補充により症状が改善するまでの期間には差があります。
- 活動低下 2~7日
- 高脂血症 2~4週間
- 神経症状 1~3か月
- 皮膚疾患 2~4か月
甲状腺を疑うきっかけとして、一番多い皮膚疾患ですが治療に反応するまで月単位の長い期間が必要です。なかなか効果がでなくても、辛抱強く飲み薬を続けましょう。治療開始時の写真を撮ると差が分かりやすいので良いかと思います。
甲状腺機能低下症について不明点や相談がありましたら当院までお問い合わせください。