【解説】頭が傾く、まっすぐ歩けない。前庭疾患について
2024/04/22
流山市、柏市、野田市のみなさんこんにちは。
流山市おおたかの森にある、21動物病院-おおたかの森- 院長の坂本です。
当院ではエビデンスを元に検査・診断・治療を行っています。
今回は前庭疾患について解説します。
前庭疾患とは
前庭系が障害された結果として出現する症候群のこと。高齢の犬に多い。
前庭系とは、平衡感覚を司る部位を指します。具体的には内耳にある三半規管や耳石器(卵形嚢・球形嚢)、小脳や脳幹など脳の一部が含まれます。
平衡感覚に異常をきたすため、次のような症状がでます。
- 頭が傾く(捻転斜頸)
- 眼が揺れる(眼球振盪)
- 転んでしまい、うまく立てない
簡単に言うと、「目が回っているような状態」といえます。
前庭疾患の原因は?
末梢性と中枢性の2つに大別されます。
末梢性前庭疾患
中耳・内耳のトラブルによって起こります。例えば…
- 中耳炎、内耳炎
- 特発性前庭疾患(原因不明)
- 鼻咽頭ポリープ など
中枢性前庭疾患
脳のトラブルによって起こります。例えば…
- 髄膜脳炎
- 小脳梗塞
- 脳腫瘍 など
他にも甲状腺機能低下症(稀)、低血糖、中毒などでも発症します。
末梢性に比べ、中枢性のほうが脳にトラブルが起きているため緊急性は高くなります。
前庭疾患の症状は?
末梢性でも中枢性でも症状はほとんど同じです。上述したように平衡感覚に異常があり、目が回ったような状態になります。
捻転斜頸(斜頸)
首を傾げたようになること。
眼球振盪(眼振)
眼球が左右もしくは上下に揺れ続けること。
転倒・運動失調・旋回
真っ直ぐ歩けず、右か左にずっと回り続けたり、立っていられずにゴロンゴロンと転がってしまう。
悪心・嘔吐
目が回っているので気持ち悪くなり、嘔吐したり、食欲不振となる。
前庭疾患の診断は?
前庭疾患であることは問診・視診などで診断されます。
末梢性か中枢性か、他に基礎疾患がないかを検査していきます。
眼球振盪の方向
垂直(上下)方向であれば中枢性前庭疾患の可能性が高い。水平(左右)方向・回転方向では末梢性、中枢性どちらの可能性もある。
斜頸の方向
末梢性の場合、傾いている方向の耳に異常があります。
神経学的検査
転けてしまう場合などは検査が難しい場合もあります。
耳道・鼓膜の確認
外耳炎が波及して、中耳炎、内耳炎につながることがあります。
MRI検査
中枢性前庭疾患が疑わしい場合、行うことがあります。
当院には設備がありませんので、検査できる動物病院をご紹介いたします。
脳脊髄液検査
MRI検査を行い、炎症や感染が疑わしい場合に行うことがあります。
前庭疾患の治療は?
原因疾患が明らかな場合はそれに応じた治療を行います。
不明な場合や検査が難しい場合は状況に応じた対症療法を行います。
- ステロイド剤
- 免疫抑制剤(外耳炎・脳炎の一部)
- 神経賦活化剤
- ビタミンB群
- 制吐剤・酔い止め
- 外科手術(ポリープ、腫瘍、中耳炎など)
前庭疾患は目が回っているような状態、つまり気持ちが悪くなるため、制吐剤や酔い止めを使います。
前庭疾患の予後は?
前庭疾患は治療をすれば、ほとんどの場合7~10日ほどで改善します。しかしながら症例によっては長期間(3~4週間)かかる場合もあります。
また眼振や旋回などが消失しても、捻転斜頸だけは症状が残ってしまうことも少なくありません。生活の質(QOL)を下げるような悪心・嘔吐や転倒がなければ多くの場合、経過観察となります。
お家でのケア
前庭疾患を発症すると、うまく立てずにゴロンゴロンと転がりまわってしまいます。ぶつかって怪我をすることがあるので、毛布などで怪我をしないようにしましょう。
また狭めのクレートなどに毛布やクッションを詰めて、その中に入っていてもらうことで転がらないように固定することができます。(少々コツが必要ですが…)
お家で見ていて不安、どうしても転がりまわってしまう、食事も取らせられないなど場合によっては入院管理も大事です。動物病院に相談しましょう。