【解説】発症すると致死率が非常に高い!猫伝染性腹膜炎(FIP)について
2024/03/20
流山市、柏市、野田市のみなさんこんにちは。
流山市おおたかの森にある、21動物病院-おおたかの森- 院長の坂本です。
当院ではエビデンスを元に検査・診断・治療を行っています。
今回は猫伝染性腹膜炎(FIP)について解説します。
猫伝染性腹膜炎(FIP)とは?
猫腸コロナウイルスが突然変異することで発症する致死的な疾患です。
このウイルス自体は健康な猫の腸管にもよく認められるもので、変異しなければ無症状もしくは軽度の胃腸炎症状のみとなります。
しかし突然変異を起こすこで、FIPを発症し致死的な状況に陥ってしまいます。その致死率はほぼ100%と言われてきました。
ちなみにヒトの新型コロナウイルス(COVID-19)とはまた別のコロナウイルスです。ヒトから感染してFIPになることも、FIP発症猫からヒトに感染することもありません。
また猫腸コロナウイルスは感染するため、多頭飼いではウイルス保有率が100%ともいわれています。
一頭がFIPを発症したら、他の猫も発症するかと言われると、その可能性は低いとされています。ただし感染する可能性もある、とされているので油断はできません。
FIPの発症要因は?
FIPは猫腸コロナウイルスの突然変異で発症すると言いましたが、そのリスク要因として以下のものが挙げられています。
・ストレス
集団飼育、手術、引越し、旅行など
・一部の猫種
ベンガル、ラグドールはリスクが高い
・若齢
FIP発症猫のほとんどが1歳未満。もちろんどんな年齢でも発症リスクはあります。
FIPの症状
FIPにはウェットタイプ(滲出型)とドライタイプ(非滲出型)があります。
ウェットタイプは腹水や胸水が貯留する。腹水の貯留が多いが、胸水のみの場合やどちらも貯留する場合もある。
ドライタイプは肉芽腫形成が主で、腹水や胸水は認められない。
共通の症状として以下のものがある。
- 元気・食欲消失
- 発熱
- 嘔吐
- 下痢
- 黄疸
- 神経症状(発作、麻痺など)
- 眼の炎症(前部ブドウ膜炎、脈絡膜炎など)
- 皮膚の脆弱化
これに加え、ウェットタイプでは
- 腹水の貯留による、腹部膨満
- 胸水の貯留による、呼吸困難
FIPの診断方法は?
FIPと確定診断することは病理組織検査が必要です。しかしこれは動物への侵襲が強いことからほとんど行われない。実際には様々な情報から総合的に判断することになります。
- 年齢や症状
- 血液検査
- 胸水・腹水検査
- X線検査
- 超音波検査
- MRI検査(神経症状がある場合)
- PCR検査
消化管や便以外から猫腸コロナウイルスの遺伝子が検出できればFIPの可能性は高い。PCR検査にて突然変異した部位を検出されるとより可能性は高くなる。
ウェットタイプで胸水・腹水があれば診断も比較的つきやすいが、特にドライタイプは診断が難しい。
FIPの治療は?
様々な治療法が検討されていますが、著効する治療法は見つかっていませんでした。
免疫抑制剤、抗真菌剤、ステロイド剤、抗がん剤、インターフェロン製剤など…
最近では、ヒトの新型コロナウイルスの治療薬であるレムデシビルやモルヌピラビルが有効だと報告されています。
また海外では動物用治療薬として認証されているGS-441524錠などもあります。
これらのお薬は日本では動物用薬としては未承認。したがって輸入するか、人体薬を使う必要があります。
もともとの薬価が高いこと、ヒトよりも多い量が必要なことから、治療費は高額(総額で数十万~百万ほど)になります。
また治療期間は長く、現状では12週間(84日間)が基本となっています。
費用は高く、治療期間は長くなりますが、従来の治療法に比べて格段に治癒率は高くなっています。
これらの新薬はウイルスを増やしにくくする作用をもつので、ウイルスが増えて症状が進行してからよりも、なるべく早期から服用するほうが効果的です。なので他の病気と一緒でできるだけ早期発見、早期治療がよいでしょう。
まだまだ新しい治療法として確立されつつあるところなので、実施可能な動物病院は限られています。