【解説】犬に最も多い心臓病、僧帽弁閉鎖不全症とは?
2025/02/20
流山市、柏市、野田市のみなさんこんにちは。
流山市おおたかの森にある、21動物病院-おおたかの森- 院長の坂本です。
今回は犬の僧帽弁閉鎖不全症について解説します。
僧帽弁閉鎖不全症とは
犬に多い心臓病の一種で、僧帽弁(左心房と左心室の間の弁)がうまく閉じず、血液の逆流が生じてしまう病気です。
心臓は4つの部屋(右心房、右心室、左心房、左心室)に分かれています。
弁が正常であれば、体循環→右心房→右心室→肺→左心房→左心室→体循環と一方向にしか血流が流れません。
僧帽弁閉鎖不全症では左心房↔左心室の間で逆流が生じます。


青丸=僧帽弁で逆流が発生している部分
そうすると身体に流れる血液量(心拍出量)が減少することと、右心房に逆流した血液がうっ滞することで障害が発生します。
血液のうっ帯が進行すると、肺にまで影響が生じ、肺に水が溜まった肺水腫を発症します。
肺水腫では、本来空気が入るべき場所(肺胞)に液体が溜まってしまうことで、呼吸困難となり、呼吸数の増加、チアノーゼなどを呈し、最悪の場合死に至ります。
また場合により肺高血圧症を併発することもあります。
※チアノーゼ…粘膜(特に舌)の色が暗紫色になること。酸素欠乏状態。
僧帽弁閉鎖不全症の症状
- 初期は無症状のことも多い
- 発咳
- 疲れやすい(昔と比べて散歩の距離や遊ぶ時間が短くなる)
肺水腫になった場合
- 呼吸困難
- 1分間に40回以上の頻呼吸
- チアノーゼ
- 首を伸ばして座る姿勢(伏せれない)
- 発咳(湿性)
僧帽弁閉鎖不全症の好発犬種
好発犬種として次の犬種が挙げられます。小型犬に多く発生します。
- キャバリア・キングチャールズ・スパニエル
- チワワ
- トイ・プードル
- マルチーズ
- シーズーなど
中でもキャバリア・キングチャールズ・スパニエルはかなりの割合で罹患すると言われており、早ければ3歳で発症し、10歳になる頃にはほとんどすべての子が罹患します。
僧帽弁閉鎖不全症の検査・診断
身体検査、X線画像検査、超音波画像検査を行います。
身体検査(特に視診、聴診)
心雑音、呼吸様式、呼吸回数、咳の種類などを確認します。
僧帽弁閉鎖不全症の犬ではほとんどの場合で心雑音が聴取されます。心雑音にはいくつかグレード分類があり、ここではよく使用されるLevine分類を記載します。
一部を除き主観的な評価になるので獣医師により僅かに違いが生じます。
| グレード | 定義 |
| Ⅰ | かすかな心雑音で、注意深い聴診でのみ聴取される。 |
| Ⅱ | 聴診器を当てるとすぐに聴取される。 |
| Ⅲ | 中等度の心雑音。心音と心雑音の大きさが同程度 |
| Ⅳ | 中等度の心雑音で、スリルが触知される。 |
| Ⅴ | 強大な心雑音で、聴診器を胸壁から離すと聴取されない。 |
| Ⅵ | 強大な心雑音で、聴診器を胸壁から離しても聴取される。 |
※スリル…心雑音が触れた手で感触としてわかる。
X線画像検査
X線画像検査では、心臓のサイズ・形、肺血管、肺全体の陰影に注目します。
心臓のサイズは椎骨心臓サイズ(VHS)や椎骨左房サイズ(VLAS)を測定します。
超音波(エコー)画像検査
超音波画像検査では、ドップラー法による逆流の確認、左房経/大動脈経比(LA/Ao)、標準化左房拡張期末期経(LVIDdN)を測定します。
また状況により逆流速、左房内経短縮率(FS)、僧帽弁口血流波形(E波、A波、E/A)などを測定します。
超音波画像検査は基本的に横臥位(横になって)検査します。
肺水腫が疑われる場合は横臥位にすると呼吸がさらに苦しくなる可能性が高いので、肺の超音波画像検査を行うこともあります。
通常の肺であれば空気で満たされているため超音波が通りません。
肺水腫の肺になると空気でなく液体で満たされるため、通らなかった超音波が通るようになります。
これを利用して、できるだけ動物に負担を与えずに肺水腫かどうかを即座に見分けることができます。
僧帽弁閉鎖不全症の治療
僧帽弁閉鎖不全症にはステージ分類があり、米国獣医内科学会(ACVIM)のステージB2以上が治療の対象となります。ステージは一度でも上がれば下がることはありません。
| ステージ | 定義 |
| A | 発症リスクはあるが、器質的以上がなく心雑音がない犬 |
| B1 | 器質的異常(弁の変性や心雑音)はあるが、基準を満たさない犬 |
| B2 | 基準(心雑音の程度、X線画像検査、超音波画像検査)を満たす犬 |
| C | 肺水腫の発症や既往がある犬 |
| D | 標準的な治療に抵抗があり、難治性の犬 |
キャバリア・キングチャールズ・スパニエルや好発犬種の小型犬は無条件でステージAに含まれます。
内科治療
原則ステージB2以上が認められれば内科治療を開始します。この治療は逆流をなくして完治させるというよりは、心臓の動きを補助し、少しでも進行を遅く、肺水腫への進行を防ぐという治療になります。
ピモベンダン、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬などが使われます。
ただし状況によってはステージB1でも治療を始めることがあります。その場合はACE阻害薬から始めることが多くなります。
肺水腫になった場合(ステージC以降)は、上記の内服薬に加えて酸素吸入、利尿剤が使われます。
利尿剤は使用していると腎臓病や電解質異常が発生してしまうことも少なくありません。しかし肺水腫はすぐに治療しないと死亡リスクが高いので、あとの腎臓病等を気にして使用しないよりは、リスクはあるが今を生き抜くために必要になります。
外科治療
根本的な治療は外科手術のみとなりますが、専門性が高く、日本でも手術可能な病院はごく一部に限られること、手術費用が非常に高額なることから選択する方は多くありません。
こちらはステージC以降ですることが多いようです。
僧帽弁閉鎖不全症の予後
論文上のデータでは、無徴候の場合で生存期間は3~5年、ステージCでは1年以内に半数が死亡、ステージDでは中央生存期間は160日です。
また体重が減少してくる(心臓生悪液質)と予後が悪いと言われています。
僧帽弁閉鎖不全症での日常で気をつけること
呼吸数の測定
上述したように、肺水腫になると呼吸困難になることから呼吸回数が増えます。
日常的に安静時呼吸数を測定することで、呼吸数の増加が把握でき、早期に肺水腫の対応を始めることができます。
安静時呼吸数は1分間に40回以上で明らかな呼吸促迫とされています。
肺水腫になる前から少しずつ心拍数とともに呼吸数も増加してきます。
呼吸数の測定は安静時に行います。例えばリラックスして伏せているとき、まどろんでいるときなどです。
運動時や興奮時では何もなくとも呼吸が早くなるため測定してはいけません。
測定は胸が膨らんでしぼんでを1回としてカウントします。
これを1分間測っても良いですし、6秒間の呼吸数を10倍もしくは10秒間の呼吸数を6倍などでも大丈夫です。
体重
上述したように僧帽弁閉鎖不全症の犬で体重減少は予後が悪い指標になっています。
これは心臓生悪液質といい、全身循環が悪いことから酸素や栄養が体中の組織に回らないことで発生すると考えられています。
適正体重であればその体重を維持するように食べさせましょう。
肥満であればもちろん適正体重まで減量した方が良いです。
運動制限は?
基本的には運動制限はしなくて問題ないとされています。
とはいえ、病態が進行した子ほど、過度な運動は控えたほうが良いと思います。(ドッグランでずっと長い時間全力疾走など)
さいごに
僧帽弁閉鎖不全症は肺水腫へと進行することで命にかかわる疾患です。
また外科手術以外に根治を目指せる治療がないので、早期発見・早期治療を行いましょう。
肺水腫になった場合は緊急性が高いので、繰り返しになりますが次の症状があればすぐ近くの動物病院へ受診してください。
- 呼吸数増加(1分間に40回以上)
- チアノーゼ
- 首を伸ばして座位から動けない
- 発咳の増加(特に湿性)
当院ではエビデンスを元に検査・診断・治療を行っています。




