【解説】尿が多い?飲水量が多い?元気も食欲もない…慢性腎臓病について
2025/03/01
流山市、柏市、野田市のみなさんこんにちは。
流山市おおたかの森にある、21動物病院-おおたかの森- 院長の坂本です。
今回は慢性腎臓病について解説します。
腎臓の働き
そもそも腎臓は何をしているところかざっくり説明すると、血液をろ過して尿を作るところです。でも実は他に様々な機能があります。
- 老廃物を尿として捨てる。
- 水分、電解質を調節する。
- 造血ホルモン(エリスロポエチン)を分泌する。
- 血圧を調節する。
血液のろ過のみでは尿として捨てすぎるものが多いので、ろ過した後に必要な電解質や水分は再び吸収されます。そうしてろ過と濃縮が行われ尿が作られます。
慢性腎臓病とは
慢性腎臓病(Chronic kidney Disease; CKD)は「3ヶ月以上にわたって片方または両方の腎臓に構造上・機能上の異常がある状態」とされています。
以前は慢性”腎不全”と呼ばれていました。腎不全は腎臓の機能がほとんどなく、腎臓病の末期の状態といえます。ただ末期がどこからという線引きがないので、現在では慢性”腎臓病”と呼ばれています。
3ヶ月以上の継続した異常がないと慢性腎臓病とは言えません。したがって健康診断等で1度だけ異常値が出た!では疑いがあるという状態で、診断がついたとは言えません。確実に診断するためには複数回の検査が必要になります。
慢性腎臓病になると尿毒症、多飲多尿、脱水、電解質異常、リン・カルシウムの異常、貧血、高血圧、タンパク尿、代謝性アシドーシスが起こります。
尿毒症
腎臓は血液をろ過して老廃物を排泄しています。慢性腎臓病ではこれがうまくいかなくなり、身体に老廃物が溜まってしまい、尿毒症を引き起こします。
多飲多尿、脱水
腎臓が一度障害を受けると元には戻らず、少しずつ血液をろ過する部分が減っていきます。そうすると腎臓の残された組織が障害を受けた組織の分まで頑張って働かないといけません。
ろ過する量も増え、その後の再吸収する量も増え…慢性腎臓病が進行するといずれ対応しきれなくなり、尿量が増えます。
尿量が増えたことで脱水状態になり、多渇感がでることで多飲となります。
尿量を測ることは難しいですが、飲水量は簡単に測れます。多飲、つまり水を飲む量が多いとされる基準値があります。
犬…24時間で体重1kgあたり100ml以上(5kgの子であれば500ml以上の飲水で多飲)
猫…24時間で体重1kgあたり45ml以上(3kgの子であれば135ml以上の飲水で多飲)
飲水量は正常の個体であればこの半分程度とされています。
電解質異常
腎臓で血液をろ過したあとの再吸収で電解質も調節されています。ろ過されたカリウムの量が多くなり、多すぎて吸収しきれずに尿へと排泄されてしまいます。
また慢性腎臓病が進行し食欲が低下すると、経口摂取するカリウムの量も減少します。
排泄されるカリウムの増加と、摂取するカリウムの低下が合わさり、低カリウム血症が発生しやすくなります。
リン・カルシウムの異常
腎臓病が進行するとリンは排泄が減り、リンが身体に蓄積していきます。この状況を打破するために身体はリンの排泄を増やそうと上皮小体ホルモン(パラソルモン)や線維芽細胞増殖因子23(Fibroblost Groth Factor-23; FGF-23)が働き始めます。それでも間に合わずにどんどんリンが蓄積していくと高リン血症となります。
リンは骨にも多く存在しており、カルシウムとバランスを取っています。そのためカルシウムにも影響が出て、低カルシウム血症や高カルシウム血症が起きてしまいます。
これは二次性上皮小体機能亢進症と呼ばれます。
貧血
腎臓からはエリスロポエチンという造血ホルモンが分泌されています。慢性腎臓病が進行するとこの分泌量が減り、血液をうまく作れずに貧血になることがあります。
高血圧
腎臓には血圧が下がりすぎないようにセンサーがあります。腎臓が障害を受けることで腎臓内に入ってくる全体の血液量が減ってくると、これはマズイ!と血圧を上げるように働きかけます(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系; RAASと呼ばれます)。
これがどんどん進行していくと、RAASが行き過ぎて高血圧になることがあります。
ある程度の血圧はもちろん必要なのですが、あまりにも血圧が高すぎると腎臓も障害を受けますし、脳、眼、心臓などの他の臓器にも障害を与えてしまいます。
タンパク尿
通常は尿中にタンパク質はでてきません。大きなタンパク質はろ過されず、小さいタンパク質はろ過後に再吸収されるからです。
腎臓病では血管壁の隙間が広がりタンパク質がろ過されてしまい、また再吸収が間に合わずに尿中にタンパク質が漏れ出てきます。
尿検査ではいわゆる尿タンパクと、尿タンパク-クレアチニン比(UPC)があります。
尿タンパクは一般的に尿試験紙で検出されますが、一部のタンパク質は検出できません。また尿の濃さによって数値が変動します。
それを補うのがUPCとなります。尿中に漏れ出すクレアチニンとの比とすることで尿の濃さの影響を低減しています。また測定方法によりますが通常の尿タンパクだけでは検出できないタンパク質も合わせて検出できることで、精度を上げたものになります。
したがって重要なのはUPCとなります。
代謝性アシドーシス
腎臓は体液中の酸性、アルカリ性のバランスも調節しています。通常は酸性のものを排泄し、アルカリ性のものは再吸収しています。
慢性腎臓病ではこの調節がうまく行かず、身体に酸性のものが蓄積することでアシドーシス(体液が酸性に傾いた状態)になります。アシドーシスになると身体のタンパク質が変性してしまい、炎症を起こしたり、尿毒症のような症状が出たりします。
慢性腎臓病のステージング
国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)がステージ分類を提言しています。
検査項目としては血液検査でクレアチニン(Cre)、対称性ジメチルアルギニン(SDMA)を用います。またサブステージ分類として尿検査での尿タンパク-クレアチニン比(UPC)、血圧を用います。
犬
| ステージ | Cre (mg/dL) | SDMA (µg/dl) |
| 1 | <1.4 | <18 |
| 2 | 1.4~2.8 | 18~35 |
| 3 | 2.9~5.0 | 36~54 |
| 4 | >5.0 | >54 |
猫
| ステージ | Cre (mg/dL) | SDMA (µg/dl) |
| 1 | <1.6 | <18 |
| 2 | 1.6~2.8 | 18~25 |
| 3 | 2.0~5.0 | 26~38 |
| 4 | >5.0 | >38 |
UPC
| サブステージ | 犬 | 猫 |
| UPC | UPC | |
| 非タンパク尿 | <0.2 | <0.2 |
| 境界域タンパク尿 | 0.2~0.5 | 0.2~0.4 |
| タンパク尿 | >0.5 | >0.4 |
血圧
| サブステージ | 収縮期血圧(mmHg) |
| 正常血圧 | <140 |
| 前高血圧 | 140~159 |
| 高血圧 | ≧180 |
慢性腎臓病の症状
多飲多尿、食欲不振、嘔吐、元気消失、筋肉量の減少、神経症状、止血異常、口内炎などを起こします。
尿毒症や高血圧が進行すると、痙攣、意識障害、失明なども認められます。

慢性腎臓病の診断
診断には身体検査、血液検査、尿検査、血圧測定、X線画像検査、超音波画像検査を行います。
身体検査
慢性腎臓病では腎性悪液質により痩せている子が少なくありません。また尿量が増えたことで脱水している場合が多いです。
腹部の触診にて腎臓の大まかなサイズや腎臓表面を確認します(進行した慢性腎臓病では腎臓表面がゴツゴツとして平滑ではありません)。
血液検査
ステージングに重要なのはCreおよびSDMAとなります。
ただし慢性腎臓病では老廃物が体内に貯留するため、血中尿素窒素(BUN)も上昇することがあります。
腎臓は電解質の調節もしているので、カリウム(K)を確認していきます。
二次性上皮小体機能亢進症になることも多々あり、リン(P)、カルシウム(Ca)の異常が認められることも少なくありません。
尿検査
慢性腎臓病では多尿になります。多尿では尿の濃度が薄くなるので、尿比重が低下します。またサブステージ分類に必要なUPCも測定していきます。
血圧測定
高血圧による障害を防ぐために血圧も測定します。これは1度のみではなく複数回行います。
X線画像検査・超音波画像検査
腎臓だけでなく他の臓器は問題ないか、腎臓の構造上の異常がないかを確認していきます。
同じ慢性腎臓病でも尿管閉塞などの急性腎障害から発展したもの、腎臓腫瘍、腎盂腎炎、糸球体腎炎、多発性嚢胞腎など様々な種類があります。
慢性腎臓病の治療
これ!という特効薬はありません。病状に合わせて治療します。
腎臓病用療法食
腎臓の負担を軽減するため、尿毒症、タンパク尿、低カリウム血症、高リン血症、代謝性アシドーシスに対して使用します。
こういった療法食はタンパク質が少なく、カリウムは多く、リンは少なくなっています。
飲水量を増やす、点滴
脱水、低カリウム血症、高リン血症に対して使用します。
脱水は腎臓病を更に悪化させるため是正が必要です。脱水を是正する方法の中でも飲水量を増やすことが最も重要となります。飲水量を増やすコツはコチラの記事をご覧ください。
飲水量を増やしても脱水が継続する場合や尿毒症が酷いとき、カリウムやリンの乱れが酷いときは点滴も行います。
皮下点滴してれば大丈夫!というわけではありません。皮下点滴では入れられる水分の種類が制限されており、慢性腎臓病では一般的に乳酸リンゲルという点滴を使用します。これは血管中には残りやすいですが、細胞内には入りにくい水分になります。
一方で口から飲む水は自由水と呼ばれ、細胞内にもしっかり入っていく水分になります。
静脈点滴(入院が必要)であれば自由水となるブドウ糖液も入れらますし、カリウムやリンの調節も可能です。したがって状況に応じて静脈点滴が必要になることも少なくありません。
内服薬
尿毒症、タンパク尿、高血圧に対して使用します。身体に吸収する前に消化管内で老廃物を吸着する、腎臓への血流量を増やす、腎臓の線維化を抑制する、炎症を抑えるなどの目的に応じた薬を使います。
また嘔吐、食欲不振などが出れば、それに応じた内服薬を使用します。
エリスロポエチン製剤
慢性腎臓病による貧血に対して使用します。不足した造血ホルモンであるエリスロポエチンを注射することで補充します。
サプリメント
リンを身体に吸収される前に消化管内で吸着させるサプリメント、抗酸化作用・抗炎症作用を目的としたサプリメント、カリウム製剤のサプリメントなど様々あります。
人工透析は?
獣医療では人工透析は一般的ではありません。
透析は血液を取り、血液中の老廃物を除去し、また身体に戻すという処置です。1度始めると何時間も身動きが取れません。人間は理解してじっとしてくれますが、動物ではそうもいきません。また費用も非常に高額になっており、継続することは現実的ではありません。
ごく一部の動物病院でのみ実施可能となっています。(当院では対応できません。)
さいごに
障害を受けた腎臓の組織はもう機能の回復は見込めません。したがって早期発見・早期治療を行い、進行を遅らせることが重要な疾患です。
特に高齢な猫はその大半が慢性腎臓病に罹患しているとも言われていますので、当院では若齢期から1年に1回の健康診断、7歳からは1年に2回の健康診断を推奨しています。特に重要なのは血液検査と尿検査だと考えています。
他にお家で気をつけられることは、飲水量を確保することと飲水量自体のチェックです。たまにで構わないので飲水量は計測・記録して、普段より多い日が続くようなら早めに検査を受けましょう。
当院ではエビデンスを元に検査・診断・治療を行っています。




