【解説】心臓病マーカーはどう見る?
2026/02/27
流山市、柏市、野田市のみなさんこんにちは。
流山市おおたかの森にある、21動物病院-おおたかの森-です。
今回は犬と猫で使われる心臓病マーカーについて解説します。
心臓病マーカーとは、血液検査で見れる項目で心臓病と関連がある項目を指します。この項目が上がってきているから心臓病の可能性がある、心臓病が悪化してきているなどの指標になるものです。
犬、猫ではNT-proBNP, ANP, NT-proANP, cTnIが用いられます。
BNP, NT-proBNP
脳性ナトリウム利尿ペプチド(Brain Natriuretic Peptide; BNP)は主に心室筋で産生・分泌されるホルモンの一種です。
ホルモンなので次のような作用があります。
- レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系の抑制
- 腎臓での水・ナトリウム排泄促進(利尿作用)
- 末梢血管拡張作用
心臓に負荷がかかり、心室筋が伸展すると、心室筋内で産生されたプロホルモン(proBNP)が分解されてBNPとN末端プロBNP(N-terminal proBNP; NT-proBNP)として血中に分泌されます。BNPは上記のような作用があり、心臓への負担を減らそうと働きます。NT-proBNPの方は分解された“余り”で、作用はありませんが血中で安定しているため検査に用いられます。

心室筋が伸展したときに産生され始めるので、NT-proBNPは短期間ではなく長期間の心室筋への負荷を反映します。
ただし元々ホルモンとして分泌され作用を持つため、心臓病以外でも数値が変動することがあります。
- 上昇要因:循環血液量の上昇、腎機能低下、高血圧、甲状腺機能亢進症、貧血、加齢、メス、特定の品種、家族性、興奮など
※種差…ラブラドール・レトリバー、グレーハウンド、ニューファンドランド
BNP, NT-proBNPのまとめ
上記の変動要素もあるため、NT-proBNP単独で心臓病を診断することはできません。確定診断を行うためには超音波検査が必須です。
犬に多い僧帽弁閉鎖不全症では重症度評価に用いられますが、治療方針の決定を行うには超音波検査など精査が必要となります。非常に高いもしくは急激な上昇があれば、そう遠くない内に心不全を起こす(≒肺水腫)可能性が高いので注意が必要です。
猫に多い肥大型心筋症では心室筋の肥厚があるため、進行して左心房が拡大する前に高値となります。したがって基準値を超える場合は超音波検査をして診断をしましょう。可能性は低いですが低値でも肥大型心筋症がないとは言えません。
ANP, NT-proANP
心房性ナトリウム利尿ペプチド(Atrial Natriuretic Peptide; ANP)は心房筋に含まれるホルモンの一種です。
ホルモンなので次のような作用があり、循環血液量や血圧の調整をしています。
- レニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系の抑制
- 腎臓での水・ナトリウム排泄促進(利尿作用)
- 末梢血管拡張作用
心房筋の中に貯蔵されているときはプロホルモンとして存在しています。
心臓に負荷がかかり、心房筋が伸展すると分泌され、血中で分解されてANPとN末端プロANP(N-terminal proANP; NT-proANP)となります。
BNPと異なり貯蔵されているため、心房に負荷がかかったときに迅速に増加します。

以上のことから心臓病、特に心房に負荷がかかっているかどうかの心臓病マーカーとして使われます。
犬や猫では特に左心房の負荷の指標になるので、犬で多い僧帽弁閉鎖不全症や、猫で多い肥大型心筋症の病態把握に用いられます。
ただし元々ホルモンとして分泌され作用を持つため、心臓病以外でも数値が変動することがあります。
- 上昇要因:心臓病、腎機能低下、心拍数・交感神経活性の上昇、加齢、特定の品種
- 低下要因:脱水
※種差…ジャーマン・シェパード・ドッグ、キャバリア・キングチャールズ・スパニエルは高値を示します。
※腎機能低下での数値は安定しないことから腎機能マーカーとしては用いません。
ANP, NT-proANPのまとめ
上記の変動要素もあるため、ANP, NT-proANP単独で心臓病を診断することはできませんが、心臓病(特に犬の僧帽弁閉鎖不全症)がすでに診断されており、その悪化を捉えるには良いマーカーだと考えられます。これまでの数値に比べて上昇していくようであれば早急な対応が必要と考えますが、変化がない~減少するようであれば予後が良いと判断されます。
cTnI
心筋トロポニンI(アイ)(Cardiac Troponin I; cTnI)は筋肉を構成するトロポニンの内の一つです。
トロポニンは心筋だけでなく骨格筋にもありますが、それを構成するサブユニットC, T, IのうちIに関してはその90%以上が心筋に存在します。
心筋が傷害を受けるとcTnIが血中に流出するため、cTnIの上昇は心筋の傷害(≒壊死)を反映します。
心筋が壊死すればどんな心臓疾患でも上昇します。僧帽弁閉鎖不全症、拡張型心筋症、肥大型心筋症など代表的な心臓疾患の他に、高血圧や甲状腺機能低下症などによる心筋肥大、炎症によるサイトカインが心筋を傷害する、心臓の腫瘍(血管肉腫など)、不整脈でも上昇します。
また腎臓機能低下があると、cTnIの排泄が上手くできず、身体に残ることで上昇することがあります。
最後に
結局のところ、心臓マーカーだけで診断したり治療方針を決定できるわけではありません。
しかし継続的に検査し数値化することで、悪化していないか、予後はどうか、心不全になる直前なのかどうかを把握できます。
心臓の検査で最も有用なのは超音波検査になりますが、同一人物が検査した場合でも誤差が出てしまいます。心臓病マーカーでは採血だけで検査ができるため、こうした誤差がほとんどないのが良いところです(もちろん血液検査でも測定誤差は多少あります)。
健康診断などで検査する場合は、心臓病リスクの高い品種で受けると良いでしょう。
結果の値が高ければ高いほど画像検査を推奨します。ただし低値であっても心臓病が否定できるわけではありませんので注意が必要です。
また、超音波検査中にじっとできない性格や状態が悪いなどで超音波検査が難しい場合に心臓病マーカーを用いるのが良いかもしれません。
心臓病マーカーを使うメリット、デメリット
メリット
- 検査者による誤差が少ない
- 動物への負担が少ない
- 画像検査でわからないくらい早期でも検出できる可能性がある
デメリット
- 確定診断はできない
- 数値が低くても否定できない
- 治療方針は決められない
心臓の病気に関連する過去のブログ記事はこちらからご覧ください。
当院ではエビデンスを元に検査・診断・治療を行っています。
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執筆:獣医師 院長 坂本




